「µ」と「μ」は違う文字! 違いと使い分け (マイクロとミュー)

10-6 を表すSI接頭辞であるマイクロ(µ)は、科学系の文章やレポートを入力する際に頻用している記号だと思います。

しかしこのマイクロ、実はUnicode文字集合の中に2種類記号があります。(「µ」と「μ」)

普段入力しているマイクロはどちらなのか? どんな違いがあるのか? 使い分けは? と気になっていたので調べてこちらでまとめました。

※実は更に5種類ぐらいある(後述)

「µ」と「μ」の比較

文字の意味 Unicode符号位置 文字に割り当てられた名称
µ マイクロの記号 U+00B5 MICRO SIGN
μ ギリシャ語の小文字「ミュー」 U+03BC GREEK SMALL LETTER MU

※以後、両者の区別のため「µ」と「μ」をそれぞれ µ (U+00B5) と μ (U+03BC) で表記します。

まず、下の μ (U+03BC)  はギリシャ文字のミューの小文字です。

そのためマイクロという単位接頭辞としてだけでなく、ギリシャ語の文章でギリシャ文字として使用されいる文字も μ (U+03BC) の方です。

(例えばギリシャ語版Wikipediaのページ:ギリシャ(Ελλάδα) の記事に掲載されているμの字をコピーしてUnicode文字情報確認サイトにペーストしてみてください。 μ (U+03BC) の方だと分かります。)
↑ギリシャって自国を「Ελλάδα:エラダ」って呼ぶんですね!

一方で上の µ (U+00B5) は専らSI接頭辞のマイクロとして用いられています。

つまり µ (U+00B5) はSI接頭辞として、 μ (U+03BC) はSI接頭辞とギリシャ文字として使用されています。

ここまでの情報だと単位に使うべきマイクロがどちらなのか分からないので、更に調べてみます。

 

使い分け

単位に使うべきマイクロはどっち?

国際度量衡局(BIPM)は特に指定していない模様

国際度量衡局(BIPM:Bureau international des poids et mesures) はSI(国際単位系)についての公式文書を発行しています。

BIPMの公式サイトや公式文書でマイクロの使用文字に関して指定が無いか調べましたが、特に指定はありませんでした。

ちなみに、公式サイトのSI接頭辞説明ページでも、SI Brochure (国際単位系の公式文書)でも、文書内で使用されていたマイクロの文字は µ (U+00B5) の方でした。

リンク:SI Brochure: The International System of Units (SI):SIの公式文書一覧ページ
※上記ページの The International System of Units – 9th edition – Text in English を参照しました。

使用されているのが µ (U+00B5) というだけで、これは公式が µ (U+00B5) の使用を推奨or強制しているというわけでは無いように思います。

 

Unicode公式は μ (U+03BC) を推奨 ?

これらの重複する文字について、ユニコード協会(The Unicode Consortium)が発行する公式文書の一つである Unicode Technical Reports を参照した結果記載が見つかりました。

こちらの文書です→  UTR 25 Unicode Support for Mathematics

Unicode Technical Reports:Unicode標準の実装・開発に関連する幅広いトピックをカバーした技術文書。なおUTRは参考資料という位置づけで、Unicode標準への準拠はUTRへの準拠を意味しない

 

次のような記載が、上述の文書(UTR 25 Unicode Support for Mathematics)の p.11 にある 2.5 Duplicated Characters にありました。

Some Greek letters are encoded elsewhere as technical symbols. These include U+00B5 µ MICRO SIGN, U+2126 Ω OHM SIGN, and several characters among the APL functional symbols in the Miscellaneous Technical block. U+03A9 Ω GREEK LETTER CAPITAL OMEGA is the canonical equivalent of U+2126 Ω and its use is preferred. Micro sign is included in several parts of ISO/IEC 8859, and therefore supported in many legacy environments where U+03BC μ GREEK LETTER SMALL MU is not available. Implementations therefore need to be able to recognize the micro sign, even though U+03BC μ is the preferred character in a Unicode context.

Latin letters duplicated include U+212A K KELVIN SIGN and U+212B Å ANGSTROM SIGN. As in the case of the ohm sign, the corresponding regular Latin letters are canonical equivalents, therefore their use is preferred.

ギリシャ文字の中には、技術記号として別の場所でエンコードされているものがあります。これには、U+00B5 µ MICRO SIGN、U+2126 Ω OHM SIGN、およびその他の技術ブロックのAPL機能シンボルの中のいくつかの文字が含まれます。U+03A9 Ω GREEK LETTER CAPITAL OMEGAは、U+2126 Ωと正統的に等価であり、その使用が望ましいです。マイクロ記号は、ISO/IEC 8859 のいくつかの部分に含まれており、したがって、U+03BC μ GREEK LETTER SMALL MU が利用できない多くのレガシー環境でサポートされています。そのため、Unicodeのコンテキスト上では U+03BC μが優先される文字であっても、実装ではマイクロ記号を認識できる必要があります

重複するラテン文字には、U+212A K KELVIN SIGNとU+212B Å ANGSTROM SIGNがあります。オーム記号の場合と同様に、対応する通常のラテン文字は正統な等価物であるため、それらの使用が好ましいです。

 

今回の「マイクロ」以外に、オーム(電気抵抗の単位)やケルビン(温度の単位)、オングストローム(長さの単位: 10-10 m)でも同様の重複問題があったのですね。

単位 (マイクロは接頭辞) ギリシャ/ラテン文字 技術記号[1]
マイクロ μ (U+03BC):ミュー µ (U+00B5)
オーム Ω (U+03A9):オメガ Ω (U+2126)
ケルビン K (U+004B):ケー K (U+212A)
オングストローム Å (U+00C5) Å (U+212B)

[1]このような既存の(ギリシャ/ラテン等)文字を基に作られた記号は文字用記号と呼ばれています。ただしµが文字用記号でないように、技術記号の全てが文字用記号というわけではない。

※重複文字はこれ以外にもあり、その多くをこちらのページで一覧で確認できます。注意:全てではない。

 

マイクロが2種類あったのは、ギリシャ文字の方のマイクロ μ (U+03BC) が使用できない古い環境のために技術記号の µ (U+00B5) が用意されていたからなんですね。

※通常の環境であれば、現在ではご覧の通りどちらのマイクロも問題なく表示できます。

公式文章では

even though U+03BC μ is the preferred character in a Unicode context.

とあるので、一応 μ (U+03BC) の使用が推奨されているみたいです。

ただし、同時に文章には µ (U+00B5) もマイクロ記号として認識できる必要がある旨が記載されている上、そもそもこの文書自体はあくまで参考資料という位置付けなので正式な推奨とはみなせないかもしれません。

ちなみに文書ではオーム・ケルビン・オングストロームは技術記号ではなく等価対応しているラテン文字・ギリシャ文字の使用を推奨していることが明記されていますね。

一応公式的には、単位として使用する場合も通常のギリシャ文字・ラテン文字の方を使ってね! というお気持ちなのでしょうか。

 

表示上の問題に要注意

ここまでの流れだと μ (U+03BC) の使用が文字データ上は望ましいという雰囲気になりましたが、文書でマイクロ記号が画面上に表示される際 (または印刷した文書に表示される際) に注意しておかなければならない点があります。

それは、SI接頭辞は(斜体でなく)立体で表記されなければならない点です。

※詳しくはThe International System of Units – 9th edition – Text in English の Decimal multiples and sub-multiples of SI units の項を参照。
※日本語版あり。単位の表記や指定について詳しく把握したい場合は 国際単位系(SI)第 9 版(2019)日本語版 を参照。SI接頭辞が斜体NG(立体必須)なのはp.112 「SI 単位の十進の倍量および分量」に記載。

 

フォントによってはギリシャ文字の μ (U+03BC) は斜体で表示されてしまう場合があります。

(この記事自体でも、 μ (U+03BC) の方は斜体で表示されている環境が多いはず)

つまり、ギリシャ文字の μ (U+03BC) を使った場合は、表示・印刷した文書中のマイクロ記号が斜体でないか注意する必要があるということです。

 

使い分けの結論

単位として使う時は µ (U+00B5) でもOK!

Unicode公式のお気持ちとしてはギリシャ文字の方を使ってほしいのかもしれませんが、フォントによって斜体で表示されてしまうという問題を回避できる µ (U+00B5) を使うのがラクかも。

µ (U+00B5) は実装上きちんと認識するように!という内容もUnicode技術文書にあったことに加えて、国際度量衡局の公式ページや文書でも µ (U+00B5) が使われていたので、接頭辞としてマイクロを使う時には µ (U+00B5) を使って(多分)大丈夫だと思います!

Altキー+テンキーからµを入力できる

Windowsでは、WordやPowerpoint上でAltキーを押しながらテンキーで0181と押しAltキーを離すと、 µ (U+00B5) が入力できます。

注1:書式設定可能なテキスト入力欄(リッチエディットコントロール)でのみ本機能を使用可能。メモ帳では無理。
注2:IMEによっては非対応。

ちなみに変換でマイクロ記号を出す場合、IMEによって出てくるマイクロ記号の種類が変わります。

Microsoft IMEの場合は µ (U+00B5) と μ (U+03BC) の両方が変換候補として出ますが、Google日本語入力では μ (U+03BC) のみ候補に出ます。

※Altキーによるマイクロ記号入力がうまく機能しない場合はこちらの修正方法をご覧ください。

IME不具合

Altキーを押しながらテンキーの数字キーを押すことで、その数字に対応する特殊文字を入力できる機能があります。(Windows) (数字と特殊文字の対応表はこちら。) しかしある時から突然、いつものように数字キーを入力したにもかかわら[…]

Altキーで特殊文字を入力しようとすると、違う字が表示される

 

実は他にもあるマイクロ記号

今までに述べた2種以外にもマイクロ記号は複数あります。こちらはただの興味目的。

文字の意味 Unicode符号位置 文字に割り当てられた名称
µ マイクロの記号 U+00B5 MICRO SIGN
μ ギリシャ語の小文字「ミュー」 U+03BC GREEK SMALL LETTER MU
𝛍 数学記号  太字の小文字ミュー U+1D6CD MATHEMATICAL BOLD SMALL MU
𝜇 数学記号  斜体の小文字ミュー U+1D707 MATHEMATICAL ITALIC SMALL MU
𝝁 数学記号  太字斜体の小文字ミュー U+1D741 MATHEMATICAL BOLD ITALIC SMALL MU
𝝻 数学記号  太字サンセリフ体の小文字ミュー U+1D77B MATHEMATICAL SANS-SERIF BOLD SMALL MU
𝞵 数学記号  太字斜体サンセリフ体の小文字ミュー U+1D7B5 MATHEMATICAL SANS-SERIF BOLD ITALIC SMALL MU

いっぱいあるね。下5つを使う機会は無いけど

他にも、「マイクロメートル」を1つの文字にした ㎛ (U+339B) なんてのもあります。これを科学レポートに使わないでね!

マイクロが入った複合文字はこちら。

この手の複合文字の一覧はこちら

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