その際はタッチ操作で数式を横スクロールしてください
途中までは綺麗に成立する階乗の関係式
期待と裏切り
1! &= 1! \\
1! \cdot 3! &= (1 + 2)! \\
1! \cdot 3! \cdot 5! &= (1 + 2 + 3)! \\
1! \cdot 3! \cdot 5! \cdot 7! &= (1 + 2 + 3 + 4)! \\
\end{align*}
ご覧の通り、左辺を奇数の階乗の積、右辺を自然数の和の階乗とすると最初から4番目までは綺麗に等号が成立します。
さて、その次は成立するでしょうか…(フラグ)
ご覧の通り、残念ながら成立しません。
$1! \cdot 3! \cdot 5! \cdot 7! \cdot 9! = 1316818944000$
$(1 + 2 + 3 + 4 + 5)! = 1307674368000$
なので、左辺のほうが大きいですね。
5番目以降で等式が成立することはない
そもそも右辺は $15!$ であり、左辺が含まない素数 $11, 13$ を積に含んでいるため等式が成立しないことは計算せずとも一目で分かります。
規則性に沿って6番目以降の等式を考えても同様で、右辺の階乗の積の中に必ず左辺に含まれない素数が現れるため等式が成立しません。
念のため、$k$ 番目の式について、$k \geqq 5$ のとき等号が成立しないことを確認してみます。
$$ 1! \cdot 3! \cdot 5! \cdots (2k-1)! \neq (1 + 2 +\cdots +k )! $$
なお、
$$ (右辺) = \left ( \frac{k(k+1)}{2} \right)! $$
です。
証明
オーバースペックな気がしますが、素数の存在間隔について情報を与えてくれる定理であるベルトラン=チェビシェフの定理を用います。
$k \geqq 5$ のとき、右辺は常に左辺に含まれない素因数をもつことを示す。
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$(\mathrm{i})$ $k \geqq 8$ のとき
\frac{k(k+1)}{2}-4k &= \frac{1}{2}k^2 - \frac{7}{2}k\\
&=\frac{1}{2} \left(k- \frac{7}{2}\right)^2 - \frac{49}{8}\\
&\geqq \frac{1}{2} \left(8- \frac{7}{2}\right)^2 - \frac{49}{8}\\
&=4 >0
\end{align*}
より、
$$ 4k < \frac{k(k+1)}{2} $$
である。
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左辺が持ちうる素因数の最大値は $2k-1$ である一方、右辺は $1$ から $\frac{k(k+1)}{2}$ の間に含まれる素数全てを素因数に持つ。
ベルトラン=チェビシェフの定理より、任意の自然数 $2k$ に対して、$2k < p \leqq 4k$ を満たす素数 $p$ が存在する。ゆえに
$$2k-1 < 2k < p \leqq 4k < \frac{k(k+1)}{2}$$
より、右辺は左辺が持ちうる最大の素因数 $2k-1$ よりも大きな素数 $p$ を素因数に持つ。
したがって、$k \geqq 8$ のとき両辺は一致しない。
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$(\mathrm{ii})$ $5 \leqq k \leqq 7$ のとき
$k=5$ において、右辺 $(=15!)$ は左辺が持たない素因数 $11, 13$ を持つ。
$k=6$ において、右辺 $(=21!)$ は左辺が持たない素因数 $13, 17, 19$ を持つ。
$k=7$ において、右辺 $(=28!)$ は左辺が持たない素因数 $17, 19, 23$ を持つ。
したがって、$5 \leqq k \leqq 7$ のときも両辺は一致しない。
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以上より、$k \geqq 5$ のとき右辺は常に左辺に含まれない素因数をもつため両辺が等しくなることはない。■
始めの4つだけ上手く行った理由
もちろん偶然ではあるのですが、たまたま等式が成立した過程を軽く見ておきます。
$k=3$ のときは、$3!=6$ であるおかげで
$$(左辺) = 5! \cdot 6 = 6! = (右辺)$$
となっているだけです。
面白いのは $k=4$ のときだけで、
$$3! \times 5! = (2 \times 3) \times (2 \times 3 \times 4 \times 5) = (2 \times 4) \times (3 \times 3) \times (2 \times 5) = 8 \times 9 \times 10 $$
となるおかげで
$$(左辺) = 7! \cdot 8 \cdot 9 \cdot 10 = 10! = (右辺)$$
と変形できるため右辺と等しくなります。
両辺の大小について
明らかに成り立っていそうですが、ぱっと考えただけでは上手な式変形が思い浮かばず不等式を示せていません。
(本当は普通に不等式を示して両辺が一致しないことを示すつもりでした。)
ちなみに両辺の比をとると、$k$ が小さいうちは結構両辺の値は近いです。
$k$ | $(左辺) \div (右辺)$ | $(左辺)$ | $(右辺)$ |
1 | 1 | 1 | 1 |
2 | 1 | 6 | 6 |
3 | 1 |
720 |
720 |
4 | 1 | 3628800 | 3628800 |
5 | 1.0069930069… | 1316818944000 | 1307674368000 |
6 | 1.0288163848… | 52563198423859200000 | 51090942171709440000 |
7 | 1.0735475320… | 327312129899898454671360000000 | 304888344611713860501504000000 |
8 | 1.1506058087… | 428017682605583614976547335700480000000000 | 371993326789901217467999448150835200000000 |
9 | 1.2726774975… | 152240508705590071980086429193304853792686080000000000000 | 119622220865480194561963161495657715064383733760000000000 |
※表には掲載していませんが、$k$ の値を大きくしていくと左辺が右辺に比べて爆発的に増加します。