本記事では、インターネット上の数式を検索することができるサイト 「Approach Zero」の使い方について説明します。
例えば次のような数式を検索するとき、Googleなどの通常の検索サイトでは検索に苦労することが多いです。
$$\sum\limits_{n = 1}^{\infty} \frac{1}{n^4}$$
一応、「sum 1 to infinity 1/n^4」で検索すれば求めたい数式もヒットするのですが、あくまでも「sumと1とinfinityと1/n^4」の文字列を含んだサイトがヒットするだけなので、関係ないサイトがヒットすることが多々あります。
(sumという文字が入っているだけで、$\frac{1}{n^4}$ の総和が書かれているわけではないサイトなど)
その上、検索結果を見ても指定した数式が本当にヒットしているのかどうか判断しづらいので大変不便です。
しかし数式の検索を専門とする数式検索エンジンを用いれば、
- 特殊な数学記号も難なく検索でき、しかもちゃんとヒットする
- 数学記号を言葉ではなく「式」として検索にかけられる
(例えば $\sum$ を「sum/総和」といった言葉ではなく"式"として検索できる。「$\rightarrow$」も矢印としてではなく論理記号として検索できる) - $a^4+4b^4$ と $x^4+4y^4$ のように、文字が違っても表す式の内容が同じならどちらにもヒットする
- 検索結果に数式が表示されるので、望みの数式がちゃんとヒットしたかどうか確認できる
といった多くのメリットを享受できるので、数式検索を使わない手はありません!
それでは、以下で使い方を説明していきたいと思います。
数式の検索方法
はじめに (Approach Zero の要注意点)
このサイトで検索をかけると、アクセスに使用した端末の「国・都道府県・大まかな地域」が他人にも閲覧できる形で記録されてしまいます…。
IPアドレスの上2ケタが表示されていることも分かります。
表示されるのは大まかな地域なので自分の正確な住所が知られてしまうわけではないですが、自分の居住都道府県を第三者に知られたくない場合は気をつけてください。
日本でこのサイトを使用する人が増えれば自分の検索履歴が国内の他人の履歴に埋もれるので地域バレを気にする必要が減るのですが、2022年2月時点では日本での利用者が自分以外にほとんど確認できないレベルなので現状注意が必要ですね…。
どうしても自分の地域を表示させずに検索したい場合は、Approach Zero のサイトにVPNサービスなどを用いて、別のサーバー経由でアクセスしてみてください。
(もっと国内の利用者が増えてほしい…! みんなこのサイトどんどん使って!!)
サイトのトップページと検索方法
Approach Zero のサイトはこちらです。
Approach Zero: A math-aware search engine.…
普通にGoogleで検索するのと同じ感覚で、検索ボックスに数式やキーワードを入力すればそのまま検索できます。
数式の入力方法は以下の3通りです。
- 検索ボックス内で、キーボード操作で数式を入力
- 数式入力キーボードで入力 (←LaTeXのコードの知識がなくても、直感的に数式を入力できる)
- 検索ボックスに、LaTeXのコードをコピー&ペースト
画面左下にある丸いボタンを押すと数式入力キーボードが現れるので、簡単に検索したい数式を入力できます。
各方法で数式を検索ボックスに入力したら、Enterキーを押すか「Search」ボタンを押すことで検索結果画面に移ります。
数式入力キーボードの操作方法
ボタンを押すと検索ボックスに入力した数学記号が反映されます。
もちろんボタン無しでも入力できる文字(数字やネイピア数eなど)はPCのキーボードから直接しても問題ありません。
通常のキーボード操作も受け付けているので、カーソル移動やバックスペースによる部分削除なども可能です。
数式入力ボタンは4ジャンルに分けられて配置されており、それぞれに含まれるボタンの種類は以下の通りです。
ジャンル名 | ボタンの種類 |
Basic | +ー×や分数、累乗、ルート√、総和のシグマΣ、π、指数関数exp()などの基本記号 (キーボードから直接入力可能なものも多い) |
Set/Calculus | ・集合や論理の分野で使う空集合∅、部分集合⊂、否定¬、全称記号∀など ・解析の分野で使用する極限lim、微分記号、積分記号∫、無限大∞など |
Geometry | 幾何の分野で使用する三角関数sin,cos,tan、角度°、角の記号、ベクトルの矢印など |
Greek/Symbols | 小文字のギリシャ文字全てと、頻用される大文字のギリシャ文字、整数や実数全体の集合を表す白抜き記号など |
入力途中の状態
入力中の数式はカーソル移動で好きな位置を自由に編集できます。
数字や「+ ー =」などの記号、累乗「^」、分数「/」はキーボードからそのまま入力することもできます。
入力が完了したらEnterキーを押すと、検索ボックスに数式が確定されます。
入力確定状態
一度入力が完了した数式も、鉛筆マークのボタンを押すことで再編集できます。入力した数式が不要なら×ボタンで削除することもできます。
数式の複数入力やキーワード検索も可能
数式は複数指定することもできます。
また↑の画像のように、数式だけでなく「prime (素数)」「evaluate (評価)」といった検索キーワードも同時に指定することができます。
キーワードを入力後、スペースキーを押すと自動でキーワードが上記のように確定状態になります。
ただしキーワードは英語で入力しないとヒットしないので注意してください。
LaTeXコードのコピペ/入力で数式を入力・編集
検索ボックスに数式のLaTeXコードをコピー&ペーストするだけで、数式を入力できます。
入力した数式を編集したい場合や数式をLaTeXで1から手動入力したい場合は「Raw Query」をクリックするとLaTeX編集ボックスが現れます。
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検索結果の見方
検索結果一覧画面
検索結果ではヒットした数式やキーワードが黄色のマーカーでハイライトされて表示されるので、お目当ての情報がありそうなWebサイトにアクセスしてください。
結果のページによっては紺色のタグ(上記画像だと sequences-and-series:数列と級数)が付与されています。
タグをクリックすると、そのタグジャンルの結果に絞り込めます。
検索は数式の文字の表記ゆれにも対応しているので、$a^4+4b^4$ で検索をかけても、同じ式を表す $m^4+4n^4$ もヒットしています!
数式の形が完全に一致していなくても、似た形の数式がヒットします。
思いついた式を適当に検索にかけるだけで、その式に似た色々な式と情報を探し出すことができます。(部分一致もヒットするなんて凄い…!)
検索の対象サイトについて
2022年2月時点で、数式検索の対象になっているサイトは Math StackExchange と Art of Problem solving の2つの数学サイトです。
これらのサイトはどちらも英語が基本言語になっているので、現時点では日本語の情報は出てこないと思われます。
今後検索の対象サイトがWikipediaやMathWorldなどに広がってほしいですね。
さらなる活用方法
他の人の検索結果を見て楽しむ
記事冒頭で注意喚起したように、このサイトでの検索履歴は誰でも自由に閲覧できます。
他の人が検索した数式から何かアイデアやヒントを得るのもいいかもしれません。
ページ下部にある「Query Logs」をクリックすると、他の人の検索結果が見られる一覧ページに移ります。
検索結果は見るだけでなく、「SEARCH AGAIN」をクリックすることで同じ式を検索にかけることができます。
(この履歴は全部自分のやつだけど(笑))
公式ドキュメント
英語ですが、Approach Zero の詳しい使い方が掲載された公式のガイドサイトがあるので、もっと使いこなしたい場合はそちらをご参照ください。
ユーザーガイド
私の説明よりも色々と便利な情報が載っているので一読をおすすめします。
詳細なドキュメント
Approach Zeroに関する詳細なドキュメントです。開発者向けの情報も含まれています。
Tips
以下、自分が使っていて気がついたことなど…
- 論理記号の矢印は $p\rightarrow(q\rightarrow p)$ と $p\Rightarrow(q\Rightarrow p)$ のどちらでも検索結果は全く同じ
- $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^4}=?$ のように「式=?」の形で検索をかけると、式の答えの求め方が書かれたサイトにヒットしやすい
↑ヒットしない場合は、?だけ抜くとよい
開発の支援や寄付について
Approach Zero の開発を支援したい場合
Approach Zero のGitHubページはこちら。
バグ報告や数式入力キーボードへのボタン追加などフィードバック・要望がある場合はリポジトリにプルリクエストを出すといいかもしれません。
ソースコードに貢献したい場合について、以下に開発者さんが記載していました。
リンク:Contribute to source code / offer sponsorship
寄付先 (開発者さんについて)
この数式検索サイト、よく見ると広告が一つもなく利用料も無料であるためサーバーの管理費などはどうやって捻出しているのかなと気になりました。
どうやら開発者さんの学術研究(+趣味)としてこのサービスを運営しているみたいです。
リンク:開発者さん(Wei Zhongさん)のGitHubページ
↑ロチェスター工科大学(米国)の博士課程の学生さんでした。この数式検索サイトの基幹となる数式検索モデルの研究論文へのリンクが上記ページに掲載されています。
(もし数式検索についてその基幹となる理論・技術に興味がある方は論文を見てみると良いかもしれません…!)
寄付先
GitHubでスポンサー登録ができるみたいです。(月1ドル、2ドル、3ドル、27ドル、99ドルから選択可)
Most proud of being the creator of Approach Zero, a math-awa…
数式検索で大変お世話になっているので、寄付というより対価としてスポンサー登録しました!
(第1号スポンサーになれて嬉しい/ᐠ˶>ω<˶ᐟ\ )
その他のデジタル×数学プロジェクト
開発者さんの所属先研究室(Document and Pattern Recognition Lab)のサイトを覗いてみると、数式検索エンジン以外にもいろいろプロジェクトが動いているみたいでワクワクしました!
リンク:プロジェクト紹介ページ
手書き数式入力可能な数式検索インターフェイスのMathDeckも同研究室が開発したものみたいです。
プロジェクトで開発されたソフトウェア及びデータの一覧が以下のページに掲載されており、非営利目的に限定しない使用が可能なライセンスが付与されているようです(詳しくは当該ページ参照)
Software & data downloads…
数学を学習する上で便利なWebサービスが今後増えていきそうで楽しみです!